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根の堅州国 


 

 農耕民族への八重垣システム運用法の伝授


 八十神の大国主に対する迫害が繰り返されて、彼の死と再生が繰り返される。御祖の神は、終いには大国主が滅ばされてしまうことを按じて、大国主にスサノヲの許に行くよう勧める。彼はその通りにして行ってみると、スサノヲの娘・スセリ姫が応待し、スサノヲに報告する。スサノヲは彼を蛇の部屋やムカデの部屋に入れて彼を試練する。彼を慕うスセリ姫は試練を難なく済ますことができるように、蛇のひれやムカデのひれを授ける。彼は、蛇などが害しようとすればそれを振って追い払い、無事難関をパスする。
 その後もスサノヲは彼を焼き撃ちにかけたり、頭に巣喰うムカデを取らせようとした。だが、ネズミが安全なほら穴を教えたので焼き打ちを免れ、スセリ姫の策でムカデ取りを赤土の色でごまかしてすっかりスサノヲを信用させることに成功した。寝入ったすきに、大国主はスサノヲの髪を部屋の柱や巨石にゆわえつけ、大神の所持する大刀弓矢などを奪って、スセリ姫と共に逃げていく。気がついたスサノヲは黄泉津比良坂(根の堅州国と現世の接点)まで追いかけるが、はるか遠くをすでに大国主は走っている。そこでかつてイザナギ、イザナミがやったように事戸を大声で大国主に言い渡す。その内容は、「大刀や弓矢で八十神を撃退し、大国主の神(国土の支配者)としてスセリ姫を正妻にし、自分にかわって宮殿を建てて国土経営をおこなうがいい」というものであった。(時代の接点を境にした理念の世代交替を示しているわけだが、ホピ族がマサウウから新しい土地の管理権を受け継いだ話とよく似ている)
 こうして、大国主は八十神を打ち払って国土経営を始める。先の八上姫は正妻スセリ姫に遠慮して、生んだ子を木の俣にはさんで帰ってしまった。この子を御井の神という。以上ここまでがこの物語のあら筋である。
 この章は八重垣による治山効果が発揮されるようになってから、スサノヲから大国主へと国土の管理権と八重垣システムの効果的運用法の伝授がなされたことを示すだろう。ここでスセリビメとは火勢が収束する意味をもち、出来上った八重垣の一通りの効果が確かめられた頃あいを示していよう。大国主とは、地上の管理者としての権利を得た古代人であり、ギリシャ神話ではクロノスに相当する伝説上の農耕民族である。彼に授けられた運用法とは、「蛇のヒレ」、「ムカデのヒレ」で表現されるもので、「蛇」は既出の火山のこと、「ムカデ」とは火山の断面図のマグマの有様の形容であり、どちらも火山活動のことである。
 この中で「ヒレ」とはひらひらする布のことであるが、まるで溶岩をも凍らせる妖怪の芭蕉扇のような働きではないか。おそらく既述した八重垣変換の極め技、エネルギーの発光現象のことではないか。これが盛んになることは、それだけ八重垣のエネルギー変換が能率良く進んでいることを示し、火山の動きも抑えられていることになる。また、マグマをみたてた赤土を用いる呪術的方法も大国主には伝えられたようである。後世の埴輪は赤土に霊力が宿るとして盛んに製作されている。さらに、スサノヲはいくつかの試練を与え、火山活動そのものに古代人が馴染むようにしむけ、引継ぎを果たすという筋書きとなっている。
 さて、根の堅州国とは一体どこであろう。黄泉比良坂が出てくるので、黄泉の国と同じという説がある。古代人は確かに両者とも地底にあると考えていた。だがその原型は明らかに異なる。黄泉の国は死者のなおかつ生存する次元的に地下の世界であり、根の堅州国は神の隠れ住む世界である。つまり、根の堅州国こそ、真に地下の世界であり、「ネズミ(根住み)」すなわち地下に住む者が、窮地の大国主を洞窟に導いたことにも表わされているように、地底文明のことであると推測される。スサノヲの住居が、頭にムカデが巣喰うマグマの間にあることなども示されていることも、その理由だ。
マヤ族が一瞬に消えた世界、ラマ教の僧院から通じるという世界、それらは同じ場所ではあるまいか。そこには人類の成りゆきを温情的に見守る聖者の住むシヤンバラ伝説もある。(ホピの主神マサウウは今なお地底に住むとされ、ホピも地上に現れる以前は(前の時代の災禍から避難して)地下に住んでいたとされている。スサノヲと大国主の神話は、ホピの起源神話と酷似していることもある。ネズミが関わる大国主がスサノヲから受けた試練は、鳴り鏑の矢を持参せよというものだった。彼は野にある矢を取りにいったときに、スサノオの野焼きの計略に遭う。逃げ場を失ったときに、地下に住む者が「内はほらほら、外はすぶすぶ(入り口は狭いが中は広い)」と告げて誘い、火が収まった後に矢を取ってスサノヲのもとに持ち帰ったというわけだが、無用の矢羽はネズミの食するところとなったと、落ちさえ付けられているのが古事記。ホピやアメリカインディアンの祭祀に矢羽が用いられるのと関係があるのかも知れないと思ったりする)
また、御井の神とは、「三井」、「御井」といった地名の元になっている神である。それは川の二つの本流の合流点に栄えた古代都市国家を示すものと考えられる。そこは農耕の中心地であり、全部族の頭(八上姫)の産んだものとして適わしい。




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